宅録ビートルズ・2周目 – LET IT BE総括
2014年9月12日に着手して11月19日に完成。
日数計算上は69日だが宅録日記ナンバーは278~306なので、録音に要した日数は29日ということになる。
仕上がったので、振り返り。
貴重な資料
「映画のサウンドトラック」なので、アルバムで使われている曲は数曲の例外をのぞいて最終テイクを演奏している場面を映像で見ることができる。
全員の演奏を最初から最後まで、というわけにはいかないが、それでもどのパートを・誰が・どんなふうに演奏してるのかということを参考にするには十分すぎる資料だ。
“Two Of Us“の2本のギターの割り振りなんてこれ見なければわからなかったと思う。
あと2003年にリリースされた"LET IT BE …NAKED"はパートの分離がオリジナル版よりもクリアなので大いに参考になった。
“Dig A Pony“のエレピとか、"One After 909“のギターとか。NAKEDの方がずっと聴き取りやすい。
音の壁
このアルバムは元々「オーバーダビングや過剰な編集は一切せずに彼らの生の演奏を伝える」というコンセプトで製作されるはずだった。
だからベーシックトラックは凄くシンプルだ。
しかし最終的にはそのコンセプトは反故にされた。
アルバムの体裁を整えるために、プロデューサーのフィル・スペクターがあちこちにオーケストラやコーラスを加えたのだ。
分厚いオーケストラで曲を装飾するのは当時彼が得意としていた「音の壁」という手法。
幾重にも積み重なった音が壁のようにそこに立ち、押し寄せてくる。
そんな雰囲気だ。
この「壁」はオーバーダビングのパートの分離が悪い上にベーシックトラックをかき消してしまう。
だからこの手法がふんだんに使われた曲はコピーするのが大変だった。
クロマキー
ホワイトアルバムから音と映像をセットで作るようになったが、ひとつの部屋の中での撮影で50曲以上も作ってるとさすがに画面がマンネリになってくる。
できるだけ変化をつけようと画面にエフェクトを使ったりもしてきたけど、そろそろネタが尽きてきた。
で、今回は「クロマキー合成」に挑戦してみることにした。
フィルム時代はブルーバック、デジタルな今ではグリーンバック。
単色の背景で撮影して後から背景を抜くという、昔からSF映画ではお馴染みの手法。
動画を作ってる人なら1度はやってみたいと思うんじゃないかな?
やってみるためには、とにかく背景を用意しないといけない。
でもいきなり大きなスクリーン買うのもいかがなものかと思ってあれこれ探していたら、手近に良さそうなものがあった。
黄緑色の布団カバー(笑)。
1曲目のTwo Of Us。
この布団カバーを押しピンで壁に吊るして、それを背景に動画撮影。
ここまで手が込んでくるとともう録音と撮影を同時にというのは難しい。完全に「当て振り」な世界になった。
ライトは部屋の照明だけ。当然影ができる。カメラに使ってるiPhoneのカラーセンサーの挙動も安定しない。
試し撮りしたものをFinalCutに取り込んで「キーヤー」を当てると…。
おー!一応抜けるぞ!
しかししょせん簡易形。素材によってはデフォルトの設定ではきれいに抜けない。マスクカラーとルミナンスの調整が必要でこれをいじると残すべき本体も色合いが変わってしまう。
でもなんとか抜ける。完全じゃないんだけど、使えそうだ。
動画エディタ(Final Cut)のタイムラインの最背面に部屋の壁紙を撮影した静止画を貼り、そこにグリーンバック(布団カバーだけど)で撮影したものを置いてみた。
透過率を操作して、現れたり消えたり。
なんか面白い。
2曲目のDig A Ponyはルーフトップ。
これ、上手く合成できたらバンドで演奏してますみたいな画になるんじゃないだろうか。
ちゃんとやってみたくなって、ネットで「クロマキー撮影用グリーンスクリーン」とやらを購入した。
5,000円くらい。
スクリーンを固定するフレームはないので押しピンを壁に刺してそれに洗濯バサミをぶら下げて、スクリーンを張った。
折り目はあるし、吊り下げた時のシワもあるし、前に立てば影もできる。
でも早く試してみたくて、この状態で素材を撮った。
キーヤーを通すと思った以上に背景がスパッと抜けた。
布団カバーとは比べ物にならない。
合成してみると目論見通り、いや、それ以上の仕上がりになった。
面白すぎる。
シートはただ吊り下げただけなので少々の折り目やシワがあったが、存外きれいに抜けてくれた。
ただ影はちゃんと消したほうが良さそうだ。消すためにはもうひとつ照明を用意しないといけない。
Dig A Ponyは部屋の天井照明だけで撮った最初の素材を使ったのでベースの影の部分がドラムにかぶってぼやけてしまった。
こんな風に4人が並ぶくらいハデハデな画面だとあからさまに「合成!」なんだけど、クロマキーで素材を撮るとこういう「重ねあわせ」以外にもいろんなことができる。
背景を黒単色にすればハードな画になるし、逆に白にするとフワフワした雰囲気になる。星空の画像を置けば自分を宇宙に飛ばすことだってできてしまう。
うん、とっても重要なテクニックをひとつ手に入れた気がするぞ。
それにしてもこんなことがたいした手間も費用も設備もかけずに自宅でできるとは。
すごい時代になったものだ。
新たな発見
今回の製作過程で気が付いたこと一覧。
僕なりの解釈なので、違うところはあるかもしれないけど。
- Two Of UsとMaggie Maeのベースもどきのギターはピックじゃなくて指で弾くと原曲と近い音になる。
- Dig A Ponyにエレピが入ってる。考えてみればルーフトップなんだから当然か。オリジナルのLET IT BEよりNakedの方が聴き取りやすい。
- Across The Universeのアコギはレスリー通しのフランジング。
- I Me Mineの3バースはテープ編集でのリピート。だからこの部分のベーシックトラックは2バース目と全く同じ。
- I Me Mineのキーボードはオルガンの他にエレピが入ってる。
- Dig Itにマラカスが入ってるらしい。映画でジョージ・マーチンが振ってた。
- Let It Beのオルガンの音は2種類。おそらく上段と下段両方使ってる。
- Let It Beの間奏のギターのバックでオルガンはその2段のうち片側でコード、もう片側で単音フレーズを弾いてる。
- Let It Beの最後のリフレインにスネアがオーバーダビングされてる。
- Maggie Maeのドラムは最初からフルボリュームで入らない。歌入りアタマの2拍目までは鳴ってない。またはとても小さい。
- I’ve Got A Feelingのジョンのパートのバッキングで鳴ってるジョージの単音フレーズを1周目では完全に間違って弾いてた。
- One After 909のギターソロ前のドラムは8分でアクセントを付けたロール。
- The Long And Winding Roadに元テイクのギターが残ってる。レスリーを通したっぽい音。
- The Long And Winding Roadのピアノ。最後のEbは白玉ではなく和音の分散フレーズを弾いてる。オーケストラに隠れてよく聴こえないが。
- For You Blueの間奏のギター。「ジョニー、ゴー」と言われたら大きめにビブラートかける。
- Get Backのドラム。延々と続く「タッタカ・タッタカ」を16分で割ってしまうとスピード感が台無しになる。かと言ってフラムほど速くない。絶妙なタイミング。
さて、お次は・・・
アルバムに収録されていないシングル29曲!
The Inner Lightが手強い予感。というか、手強い。
今年中に全曲は終わらんだろうなぁ・・・。越年かな。