宅録ビートルズ・2周目 – ABBEY ROAD総括
2014年4月10日に着手して9月6日に完成。
日数計算上は150日だが宅録日記ナンバーは238~277なので、録音に要した日数は40日ということになる。
あらためて日記を遡ってみたら6月は全く作業していなかった。
ライブの準備とかで忙しかったせいかな?あとちょっと別の曲やってたり。
とにもかくにも仕上がったので、振り返りを。
ドラムの音
このアルバムのドラムは全般にタオルミュートの掛かった音になってて、これを再現できるかどうかというのがひとつの鍵だと思ってる。
ビートルズ全曲制覇を目指してせっせと宅録していた2004年、このABBEY ROADをコピーするにあたって僕なりにあれこれ試行錯誤したものの結局満足できる音を作ることができずに、「普通のドラム」でやってしまっていた。
2周目を始めたきっかけのひとつは、2010年にリリースされたNative Instrumentsの音源ABBEY ROAD 60S DRUMS。
素晴らしかった。
特にこの「タオルミュート」を再現した音がめちゃくちゃ良かった。
試しにCome Togetherを録音してみたらこれがとてもイイ。
「これは使える!」そう思った。
2011年末にこの音源は60S DRUMSから60S DRUMMERにバージョンアップされ、さらに強力になった。
この時はSGT. PEPPERの録音中。アルバム順にやってるのでABBEY ROADはまだまだ先だったが、やるのが楽しみで仕方なかった。
そのくらい良い音源になっていた。
そして2014年4月。再びCome Together。
うん、いいじゃないか。
その後の曲もドラムの音に助けられていい雰囲気で作ることができた。と思う。
カジノ?レスポール?それとも・・・
音にこだわりはじめると楽器にも気を遣う。
特にギターはものによって「どうしても似た音にならない」ということがあるので、あれこれ試して何を使うかを決めている。
何を使うか…と言っても選択肢は
- Epiphone Elitist Casino (セミアコースティック・シングルコイル)
- Gibson Les Paul Traditional (ソリッド・ハムバッカー)
- FGN NCST-10R Stratocaster (ソリッド・シングルコイル)
以上3本。
ビートルズマニア御用達のリッケンバッカーとかグレッチとかギブソンのSGとかオールローズのテレキャスターは持ってない(追記:この時は持ってなかったけど後日買ってしまった…)。
もちろん彼らと同じギターを使ったからといって同じ音になりはしないんだけれども、基本的なキャラというものはあるわけで。
しかしそういう意味では上の3本があれば十分だと思ってる。
テレキャスはストラトで、SGはレスポールでそれぞれ代用できるし、グレッチはカジノ使えば何とかなりそうな気がする。
動画にした時の「画的な残念さ」はあるが、それだけのために高価な楽器を買うこともできないし。
本数増えるとメンテナンスが大変そうだし。
だからこれはこれでいい。
で、「どれを使うか」という問題。
ジョンのパートはほぼ全部カジノでOKだとして、問題はジョージ君。
彼がこの時よく使っていたのはエリック・クラプトンから譲り受けたレスポール「ルーシー」、フェンダー社から寄贈されたオールローズのテレキャスター、そしてRUBBER SOULの時に手に入れたストラトキャスター、以上の3本。
そしておそらくメインで使っていたのはレスポールだったと思う。
だからまずはレスポールで弾いてみて、アンプシミュレーターを通した音を原曲と比べてみる。
ピックアップを切り替えたり、トーンをいじったり、DAWのパラメーターをいじったり、エフェクトプラグインを入れたりしてできるだけ近い音になるように弾いては調整し、ちょっとセッティングを変えてまた弾いて調整して…ということを繰り返した。
殆どの曲がレスポールで網羅できた。
でもたまにどうしてもレスポールで出せない音にぶち当たることがある。
Maxwell’s Silver Hammerとか、Sun Kingとか。
アンプシミュレーターの力を持ってしても基本的なキャラの違いを乗り越えることはできない。
で、レスポールでどうしても似た音を作りきれなければ別のギターで弾きなおしてまた調整して…実際に録音する前にこの作業を延々やっていた。
このアルバムに取り掛かってから完成までに150日。そのうち実際に録音してたのは40日。
じゃぁ残りの110日間は何もしてなかったのかっていうと、そんなことはなくて。
まぁ全く作業してなかった日も30日くらいはあるんだけど、それ以外の日はこの「音作り」の試行錯誤に費やしていた。
因みに、アンプシミュレーターはNative InstrumentsのGuitar Rig。
このアルバムまではVOXのヘッドとキャビネットのセットが基本だったが、このアルバムからはFender Twin Reverbに切り替えた。
エフェクターの類はこれまでほとんど使ってこなかったが、今回は曲によってはDistortionを使った。
Moogシンセサイザー
このアルバムで最も特徴的な楽器はMoogシンセサイザー。
Maxwell’s Silver Hammer、I Want You、Here Comes The Sun、Becauseで使われている。
Arturiaっていうソフトハウスが自社製品の"minimoog V"を2012年6月21日に1日限定で無料放出したことがあった。
クオリティは未知数だったんだけど、MoogはそのうちABBEY ROADで使うことになるかもと思ったので"moog"という名前だけを信じて即ゲット。
ゲットしただけで2年間放置していたこのソフトをいよいよ使う日がやって来たというわけだ。
楽器メーカーでエンジニアをしている身としては恥ずかしい話なのだが、実はMoogのホンモノに触れたことはない。
だからアプリを開いたものの、どう操作したらいいのか全くわからなかった。
勝手気ままにツマミを操作して自由に音を作っりながらオシレーターの構成とパラメーターの配列を覚えた。
しかし狭い画面の中にあれだけ操作子を詰め込まれるとちょっと扱いにくい。機能表示の文字も小さいし。
まぁ仕方ないんだけどね。
慣れない楽器で狙った音をうまく作ることはできなかったけど、それなりに近い音にすることはできたと思う。
あの時手に入れておいて本当によかった。
12弦ギター
これまでも再現で苦労してきた12弦ギター。
単音の時は普通のギターを録音してこれにピッチシフターを当てて原音とブレンドするという方法で作っていた。
ところがこの方法はコード弾きの時は使えない。ギターのポリフォニックにピッチシフターかますとグニャグニャのメロメロな音になってしまうのだ。
そこでRolandのV-Guitar(売却済み)の12弦の音とアコースティックの6弦をミックスしたり、ローコードと5カポの演奏をミックスしたりして、なんとか似た感じになるように音を作ってきた。
しかしこの12弦、後期になると登場頻度が激減する。
だから油断していた。V-Guitarを売ってしまうくらい油断していた。
Polythene PamとShe Came In Through The Bathroom Windowのバッキングが12弦だと気が付いたのは、この曲のためのエレキギターの音作りをしていた時だった。
エレキはレスポールで近い音ができた。でもこのバッキングは普通のアコギじゃ出せない・・・。
まさかの12弦。
しかもPolythene Pamの方は単調じゃない。かなり抑揚がついてる。
ジョンは弾きながら歌ってるのだろう。歌の合間の部分でかなり広く強くピッキングしてる。
最初ローコード+5カポで試してみた。
でもどうしても原曲の抑揚が出せない。
ローコードの抑揚と5カポの抑揚がうまくリンクできないのだ。
これじゃダメだ。
他の方法を試してみることにした。
普通に弾いたトラックをBusチャンネルに送り、ここでショートディレイをかけて発音を遅らせ、コーラスで倍音を入れ、エキサイターで高音を強調する。
これを元のローコードのトラックとミックス。
最終的に「これならいける」と思ったのはこうやって作った音だった。
元トラックの抑揚を自然に拾えるし、それにこれなら録音は1トラックで済んでしまう。
新しい技を手に入れた。
メドレー
アルバムのクライマックスになってるB面(CDや配信ではAもBも無いのだが)のメドレー。
前半5曲。後半3曲。ともに切れ目がないのでDAWのファイルは各々1ファイルで作った。
トラック数がえらいことになった(笑)。
キョービのマシンなら音楽アプリくらいでCPUやRAMがアップアップすることはないから落ちたりはしない。
でも画面が狭いから。いろいろ大変。
編集中に間違って違うトラックのリージョンを消してしまうこともしばしば。
メドレー前半の5曲はトータル10分48秒。
これまで作った最長の曲はホワイト・アルバムのRevolution 9で8分23秒。
今回はそれを超えてしまった。
「メドレー」とはいうものの、実際にベーシックトラックが連続で演奏されたのは"Polythene Pam~She Came In Through The Bathroom Window“と"Golden Slumbers~Carry That Weight“だけ。その他は編集での寄せ集めだから楽器の構成も音色はその都度変わっているわけで。
メドレー前半は26トラック。
後半はThe Endのギターでトラックが多く必要になり、Golden Slumbersからの3曲で29トラックにもなってしまった。
だから画面が狭いと大変なのだ。
YouTubeおそるべし
ビートルズのコピーでお世話になってるシンコーミュージックのバンドスコア。確か1987年辺りのCD化とほぼ同時期にアルバムごとに発売されたもので、学生時代に手に入れてから30年近くになる。絶対音感を持たず、耳もあまりよくない僕にとってはとても大切な資料だ。大変ありがたい。
市販のバンドスコアというものは曲の頭から終わりまで全部の音が完全に採譜されているわけじゃない。これは紙面のレイアウトやページ数の都合上仕方のないことだ。
それにコンポーザーが譜面を書いているわけではないから、間違いだってある。
そんな時、自分の耳以外で役に立ったのがYouTubeだ。
ここには"Isolated Track"と称して「ギターだけ」「ベースだけ」という音源が転がっている。
どこでどうやって入手したものか知らないが、これが実にありがたい。
何といってもオリジナル音源なんだから。間違いはない。
I Want Youのエンディングのベースとか
You Never Give Me Your Moneyのピアノとか
なんでもある。
本当に助けられた。
動画製作
ホワイト・アルバムから始めた「演奏風景付きの動画」製作はこのアルバムでも継続。アプリは相変わらずFinal Cutだ。
I Want Youの製作中にバージョンアップがあり、新たなエフェクトがいくつか追加された。
その中にド派手な光条を追加する「ストリーク」というものが実にいい。
ひとつの部屋の中でしか動画素材を撮れないので、製作本数が多くなってくるとだんだん画面がマンネリ化してくる。
だからこういう新しい表現手法は大変ありがたい。
「ひとつの部屋の中でしか」と書いたが、実は今回初めて外で撮影をした。
いわゆる「ロケ」ってやつだね。
曲目は"Here Comes The Sun“。
これ、ジョージがクラプトンの自宅の庭で作曲したってのは知る人ぞ知るエピソード。
そのイメージが強くて、どうしても外で撮りたかった。
クラプトンの家に行くことはできないけど。
晴れた日に、緑の芝生の上で
そんな画にしたい。
なので近所の公園で撮影した。
人が来ない時間帯を狙って(笑)
春なら最高だったんだけど、7月だったからちょっと暑かったなー。
新たな発見
今回の製作過程で気が付いたこと一覧。
僕なりの解釈なので、違うところはあるかもしれないけど。
- Come Togetherのリフ。最初のアクセントでドラム、ベース、ギターと一緒に鳴ってるのはハンドクラップだと思う。これにディレイ掛けたら似た雰囲気になった。これまでずっとスティックショットだと思ってた。。
- Come Togetherのベース。リフのアタマの1音は歌がない時はレガート。歌があるときはスタッカートで弾き分けるとイイ感じになる。
- Somethingのリズムギターは2本。共にレスリーを通した音のようだが、普通にコード弾いてる時と1バース目のアクセントがちょっと違う音のようだし、一部かぶってるように聴こえる。
- Somethingの"You’re asking me…"の部分でいきなり手数が増えるドラムは右手がフロアタム固定で左手がハイ→ミドル→フロアと移動していくパターンだと思う。で、ハイハットはオーバーダブ。
- Maxwell’s Silver Hammerのギター。シンコーのスコアでは複音を2パートに分けて書かれていたが「ピック+フィンガー」というスタイルで複音弾きをよくやるジョージなら1本で弾いたはず。
- Oh ! Darlingのベース。ちょっとオーバードライブが掛かったような音になってる。オープニングのピアノのバックで鳴ってる単音はベースのハーモニクス音だと思う。あとピアノとドラムがロールしてるブリッジの部分はスイングっぽい譜割りで上昇フレーズを弾いてる。ちょっと埋もれてるので音が聞き取りにくい。
- Oh ! Darlingのエンディングはギターのハーモニクス。4フレット付近のハーモニクスなのでちょっと窮屈。この部分、「ブリッジからテールピースの部分を弾いた音」という説もあるらしいのだが、CASINOでもLes Paulでもあの音階にならないからそれは違うと思う。
- Octopus’s Gardenのベース。ブレークしたの時のハイノートは実音じゃなくてハーモニクス。
- I Want Youのギターは2本の掛け合いだが、割り振りがよくわからない。おそらくジョンのカジノはメロディーライン。隙間の合いの手はジョージのレスポールだと思われる。
- Here Comes The Sun。ギターの"It’s all right"の後のオブリガートの最初の音。長い間半音スライドで弾いてたが原曲は全音だった。
- You Never Give Me Your Moneyは全編ピアノのバッキングがあるが"Out of college"のホンキートンクだけは他と音が違う。このホンキートンク、シンコーのスコアだと4小節を2回繰り返しになってるけど1回目と2回目は全然違うフレーズを弾いてる。
- Sun Kingにコンガが入ってる。
- Sun Kingのリードパートはレスポールで似た音が作れなかった。ストラトで弾いたが、実際はあのオールローズかもしれない。
- Polythene Pamのアコギは12弦。歌が切れる部分は他より強めにストロークしてる。
- Polythene Pamにカウベルが。
- Polythene PamとShe Came In Through The Bathroom Windowにピアノが。ちょっとした隠し味。
- Golden Slumbersのドラムのフィルインはタオルミュートしてない音がオーバーダブされてる。
- Carry That Weightにティンパニーが。最終バースへのブリッジで聴こえる。
- The Endはギターバトルの終わりを境に調律が50cent程上がっている。
- Her MajestyのオープニングのコードはMean Mr Mustardのエンディング音だった。
さて、お次は・・・
LET IT BEの12曲!