冷たい校舎の時は止まる – 辻村深月

よもやま話, 本の話

雪降るある日、いつも通りに登校したはずの学校に閉じ込められた8人の高校生。開かない扉、無人の教室、5時53分で止まった時計。凍りつく校舎の中、2ヵ月前の学園祭の最中に死んだ同級生のことを思い出す。でもその顔と名前がわからない。どうして忘れてしまったんだろう――

代車のラジオから

昨年末、交通事故に遭った。

交差点の最前列にいた僕は信号が変わるのを待っていつもの通り車を発車させた。とその時、右側から軽自動車が突っ込んできた。
急ブレーキを掛けたが間に合わず、自車のフロントが相手の車の左後方に接触。こちらは発車間際でスピードが殆ど出ていなかったのだが、信号無視で交差点に入った相手の車はかなりの速度だった。接触したはずみでその車は横転。幸いにも運転者(初老の男性)は無事だったが、双方とも車はハデに壊れてしまった。

数日経っても事故の残像がなかなか消えない、しばらく車には乗りたくなかった。
しかし公共交通機関が貧弱な地域なので車が無いと何かと不便。仕方なく修理工場から代車を出してもらった。

2006年型のトヨタVitz。
代車専用のようで、装備は貧弱だった。
カーステレオはラジオとCDとカセットテープ。
なんか20年前くらいにタイムスリップした感じだ。

これまで通勤途上はカーステにiPodをつないで自分の好きな音楽を聴いていた。が、この車ではそれができない。
CD持ち込むのは面倒だし、カセットなんかもう持ってないので、ラジオ以外に選択肢はなかった。

まぁ今はもう最小限しか乗るつもりないし。なんでもいい。
ラジオのチャンネルはFM東京系の静岡キー局・K-mixに固定していた。

ある日の朝。
通勤途上のラジオのニュースで、この本のことを知った。
 

全国高校ビブリオバトル

高校生が愛読書の魅力を語り、それを聞いて一番読みたくなった本を聴衆の投票で決める「全国高等学校ビブリオバトル2014」の決勝大会が11日、東京都千代田区のよみうり大手町ホールで開かれました。

高校生の全国大会は初めてです。

決勝には地区大会を勝ち抜いた16人が出場し、「冷たい校舎の時は止まる」を紹介した東海地区代表の日本大学三島高2年の中村朱里さんが優勝しました。

朝のラジオから流れる県内ニュース。
静岡県の高校生が東海地区代表で決勝大会に臨み、見事優勝した。

アナウンサーのニュース読みに続いて、彼女の大会で行ったプレゼンがそのまま放送された。

語り口や語彙の豊富さから、彼女が書物に親しんでいることがうかがい知れる。
星新一と村上春樹しか読んでいなかった高校時代の僕とはレベルが違う。
彼女は演説の声も素晴らしかった。張りがあり、滑舌も良かった。
つい聞き入ってしまう。
代車のハンドルを握りながら、そんな彼女の「セールストーク」にすっかり魅了されてしまった。

この本、読んでみようか。

指名買いなら通販で買うのが探す手間が省けて手っ取り早い。でも今回は書店に行って探すことにした。

探すの、嫌いじゃない。むしろ楽しい。

 

あらすじ

「冷たい校舎の時は止まる」は、2014年に「鍵のない夢を見る」で直木賞を受賞した辻村深月のデビュー作だ。

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雪の降る朝。

休校になるかもしれないという淡い期待を抱いていつもの学校に登校してきた8人の生徒。しかし、待てど暮らせど他の生徒は学校に来なかった。
先生すらいない。
校内にはこの8人しかいない。

そして8人が揃うと、突如として学校の扉が閉ざされた。

1階は扉はもちろんのこと、窓すらあけることができない。
暴力的に窓を破壊しようとしても決して窓は壊れない。
2階、3階の窓はあけることができた。
しかし、ここから飛び降りれば大怪我をする。死んでしまうかもしれない。

飛び降りる…。

2ヶ月前の学園祭の最終日。
校舎の屋上からひとりの生徒が飛び降りた。
自殺だった。

8人ともその事件を覚えていた。
しかし、何故か「自殺した生徒」の名前を思い出すことができない。

ふと学校の時計に目をやると、時計は5:53で止まっていた。
学校の時計だけじゃない。
彼らの腕時計も、携帯電話の時計も、すべて5:53で止まっていた。

この時間は…「事件」のあった時間だ。

携帯は「圏外」。学校の電話も外にはつながらない。

ここは一体どこなんだ?
なんで僕らはここにいるんだ?

自殺したという生徒がこの状況に関わっているのか?
この8人のうち、1人が死んでいるのでは…?

そして、5:53がくるたびに、8人のうち誰かがこの世界から消されていった。

恐怖と不安。
疑心暗鬼はふくらみ、彼らは追いつめられていく。
 

寒い夜に読もう

読み始めると続きが気になって仕方がない。一気に読んでしまった。

怖い話は苦手なのでこの程度でも僕はかなりドキドキしてしまう。
寒い冬の夜に読むと、本の中の情景と同化したような感覚になって盛り上がる。
逆にもしこれを熱帯夜に読んでたらどうだったんだろう?ここまで没頭できただろうか?

うん、やっぱこれは冬に読む本だと思う。
寒い夜に。ひとりで。

で、一度読み終えて、もう一度最初から読み直した。
一気読みすると先を焦る気持ちがはやって読み方が浅くなる。
結末を知った後でもう一度読む、というのは僕にとってはこのテの本を読む時の儀式みたいなもんだ。
本だけじゃない。昔やったRPGとかもそうだった。

とりあえず物語を進めてボスを倒してしまう。
そしてもう一度アタマに戻ってその世界を堪能する。

「ああ、この人はこういう意図でこういう言動をしたのか」
とか、
「これ、伏線になってるな」
とか。

1度目とは違った楽しみ方ができる。
 

長い?

長い。上下巻合わせて1,000頁以上ある。
でも読んでいて「冗長だ」とは思わなかった。

登場人物8人の過去や、友人の前では露わにしない感情の描写が主題となる学校での物語に織り交ぜて書かれている。

ひとりひとりについて、とても丁寧に描かれたバックストーリー。
それぞれが全く別の個性で、心に光と闇を併せ持っている。
彼らはどこから来たのか、内に何を抱えているのか。
それが語られることで「事件」に対する彼らの姿勢や言動に説得力が生まれる。

必要な描写なのだ。
それが8人もいるんだから、結果的に長くなるのは当然だという気がした。

ミステリー小説らしく場面の緊張感を盛り上げる演出もよかったが、それ以上にこの「人物描写」が素晴らしかった。
この人物描写を「面白い」と感じてのめり込むか、「長い」と感じて流し読むかで、この作品に対する印象は変わるんじゃないかな。